転職前に不動産投資で買うべきか|属性で借りる融資枠は慎重に使う

転職前に買うかのモデルケース:総額6,500万円を全額借りると、評価額5,448万円より借入が1,052万円多い 融資

転職を考えている会社員が不動産投資を始めるなら、年収と勤務先を強く見る金融機関で融資を受ける1棟目は、転職の前に買います。ただし、物件の価値(評価額)が価格に見合わない物件は、融資が満額(希望した額の全額)出ても買いません。この記事では、転職の前に買うか待つかを決める基準を示します。

「転職したら、融資が通らなくなるかもしれない」「業者からは、今なら満額出ますと言われた」。転職の話が具体的になると、今のうちに買うべきかと焦る方は多いはずです。転職の前のほうが審査に有利だ、という説明もよく見かけます。

しかし筆者は、転職の前を「借りやすい期間」とは考えていません。年収や勤務先など、借りる人自身の条件を属性と呼びます。属性を強く見る金融機関は2棟目では貸さないことが多く、多くの場合1棟目で使うことになります。

この記事では、属性を強く見る金融機関で受ける融資を「属性で借りる融資枠」と呼びます。この融資枠を評価額の低い物件に使うと、2棟目で断られる理由の1つを抱えます。そのため、慎重に使う必要があります。

この記事は、利回りや融資の基本を知っている方向けです。まだの方は、一棟アパート投資に向いている人から読んでください。

また、使える自己資金が2,500万円以上ある方を想定しています。値下げ交渉をして諸費用を払っても、買った後に借入総額の15%の現金を残せる規模を前提にしているからです。届かない方は、先に不動産投資の自己資金の目安をご覧ください。

転職した後の借り方、年収の何倍まで借りられるか、賞与や株式報酬を年収にどう入れるか、どの金融機関からどの順番で借りるかは、この記事では扱いません。いずれも別の記事で扱います。

結論

  1. 属性を強く見る金融機関は、2棟目では貸さないことが多い。 属性で借りる融資枠は多くの場合1棟目で使うので、転職を考えているなら、転職の前に慎重に使う
  2. 異業種・異職種への転職、会社の規模が下がる転職、直近3年の年収のぶれは、属性の評価を下げることがある。 当てはまるなら、転職の前に、合格ライン(評価額が価格の80%以上、土地の評価額が価格の50%以上)を通る物件があるかを先に確かめる
  3. 属性で借りる融資枠では、融資が評価額を超えて伸びることがある。 転職の前でも、合格ラインに届かない物件は見送る。合格ラインを通っても、売値(値下げ後)が評価額に収まらない物件は基本買わない

転職前に不動産投資で買うのは、属性で借りる融資枠を多くの場合1棟目で使うから

属性を強く見る金融機関は、2棟目になると融資しない場合が多いです。転職するなら、属性で借りる融資枠は転職の前に使うことになります。ただし、融資が出るうちに買えばよい、という意味ではありません。

筆者が関わる支援チーム(物件を買いたい人の相談を受けるチーム)は、こうした金融機関の中には既存の借入を強く見るものがあり、使えるのは借入の少ない初期だけだと見ています。

1棟目は属性を強く見る金融機関で借りるのがよいとよく言われ、筆者の周りの投資家も多くがその順番で買っています。筆者も、転職を考えている方には、先に属性を強く見る金融機関で1棟目を買い、その後に転職する順番を勧めます。転職の後に、今と同じ評価で借りられるとは限らないからです。

あなたの転職は、属性の評価を下げる転職か

異業種・異職種への転職と、会社の規模が下がる転職は、金融機関に好まれません。直近3年の年収が上下にぶれている場合も、年収を割り引いて見られることがあります。

筆者が聞いている説明では、金融機関は転職した人について、この後の収入が確約されているのか、また転職するのではないか、とリスクを大きく見ると言われています。特に別業界への転職は、離職率が高いと言われています。

支援チームが聞いた外資系勤務の方の例では、金融機関から次の説明を受けています。直近3年の年収に上下のぶれがあると、年収に掛け目(割り引く掛け算)が入る場合があります。賞与の振れ幅が大きいと、金融機関が懸念する場合もあります。

支援チームの支援先には、別の業種へ転職して前と同じ水準の年収を得られず、審査が通らなかった方もいます。次の表で「好まれない」とした異業種への転職に、年収の低下が重なった例です。

予定している転職・年収の状態金融機関の見方
異業種への転職好まれない
異職種への転職好まれない
会社の規模が下がる転職好まれない
直近3年の年収が上下にぶれている(賞与の振れ幅が大きい)年収に掛け目が入ることがある
表の4つのどれにも当たらない(同業・同職種で、会社の規模が下がらない転職など)好まれない型には入らない。ただし最後は個別に判断される

属性で借りる融資枠を大きく使う場合ほど、転職の中身を気にする必要があります。

表で最初の4行のどれかに当たるなら、転職の後に今と同じ評価で借りられるとは限りません。その場合は、転職の前に、合格ラインを通る物件があるかを先に確かめます。

評価額を超えて借りた分は、2棟目で断られる理由の1つになる

属性で借りる融資枠では、融資の額が物件の評価額を超えて伸びることがあります。超えて借りた分は、買った時点で修正後BS(金融機関が、持っている物件を評価額に置き直して作り直す貸借対照表)の純資産を減らし、2棟目の融資の相談で断られる理由の1つになります。

貸借対照表は、持っているものと借りているものを並べた表です。修正後BSで純資産がマイナスになった状態を、実質債務超過と呼びます。評価額は、土地と建物を別々に評価して足した金額です。

支援チームは、地方銀行や信用金庫が2棟目の打診(融資を申し込む前の相談)で、修正後BSの純資産がマイナスになっていないかを見ていると考えています。1棟目の借入が評価額を上回るほど、修正後BSの純資産は減ります。

モデルケースで、評価額と借入の差を出す

次のモデルケースAで計算します(数字は説明のための例です)。モデルケースAは埼玉県の新築の木造アパートで、土地100㎡・路線価18万円/㎡・延床面積160㎡・総額(土地と建物)6,500万円とします。

土地は、路線価(国税庁が道路ごとに公表する1㎡あたりの土地の値段)に土地の面積を掛けます。新築の建物は、国税庁の工事費用表(国の標準的な建築費で、埼玉県・木造は22.8万円/㎡)に延床面積を掛けます。

評価額=18万円/㎡×100㎡+22.8万円/㎡×160㎡=1,800万円+3,648万円=5,448万円

属性で借りる融資枠で総額6,500万円の全額を借りると、借入は評価額を1,052万円上回ります。この1,052万円が、買った時点で修正後BSの純資産を減らす額です(諸費用を現金で払えば、その分も純資産は減ります)。

モデルケースAの、評価額と借入 モデルケースAの評価額は5,448万円。総額6,500万円の全額を借りると、借入は評価額より1,052万円多い。 総額の全額を借りると、 借入が評価額を上回る 評価額(積算) 5,448万円 借入(総額の全額) 6,500万円 評価額より借入が多い 1,052万円
モデルケースA(埼玉県・木造の新築。土地・延床面積・路線価・総額は説明のための仮の数字)を、総額の全額を借りて買った時点の評価額と借入。評価額は土地を路線価、建物を国税庁の工事費用表で出したもので、金融機関の評価額と同じではありません。棒の長さは金額に比例し、赤い部分が評価額を上回る借入を示します。

筆者の1棟目は、借入が評価額を上回っていた

筆者の1棟目(埼玉県川越市・木造の新築)は、総額8,570万円の全額を借り入れました(フルローン)。当時の筆者は、全額に融資が付いたことを良い条件と受け止め、評価額を出していませんでした。後から筆者が同じ方法で計算した評価額は約6,979万円で(金融機関の評価額とは異なります)、借入が約1,591万円上回っていました。

1棟目の積算割合(評価額÷総額)は約81%で80%を上回りましたが、土地の割合(土地の評価額÷総額)は約30%でした(合格ラインは次の節で説明します)。2棟目の打診では、この借入と評価額の差が理由の1つとなり、地方銀行とネット銀行に断られました。打診の経緯は、不動産投資の融資|銀行開拓の記録で書いています。

一方で、1棟目の差があっても、2棟目が買えなくなると決まるわけではありません。筆者も、残った信用金庫と信用組合の間で条件を比べて2棟目を買いましたが、比べられる金融機関は1棟目の借入によって減りました。

支援チームの支援先でも、評価額が価格の約6割の新築に、地方銀行からほぼ全額の融資が出た例があります。その直後の2棟目の打診は、持っていた区分マンションの借入なども重なって、3つの地方銀行に断られました。断られた理由ごとの見分け方は、不動産投資で2棟目が買えない3つの理由と、理由ごとにやることで書いています。

属性で借りる融資枠では融資の額が大きく伸びるため、評価額を自分で確かめずに買うと、筆者の1棟目と同じ状態になります。

出典:国税庁「路線価図の説明」/国税庁「地域別・構造別の工事費用表(1㎡当たり)【令和8年分用】」

転職前に買うか待つか:ケース別の判断と、買付の前に確かめること

属性で借りる融資枠で買う物件は、合格ラインを通り、売値(値下げ後の価格)が評価額に収まるものを基本にします。収まらない物件は、基本買いません。転職の前でも、合格ラインに届かない物件は、融資が満額出ても見送ります。

ケース別にどう判断するか

筆者が買う候補に残すかを決める合格ラインは、積算割合(評価額÷売出価格、新築は総額で割る)80%以上と、土地の割合(土地の評価額÷売出価格)50%以上の2つです。決め方は、収益物件の選び方で書いています。そのうえで、転職の前に買うかを次の表で決めます。

段階状況筆者の判断
合格合格ラインを通り、売値(値下げ後)が評価額に収まる。売るときに利益が出る可能性が高い(資産が残る)転職の前に買う
危険合格ラインは通るが、値下げしても売値が評価額に収まらない基本買わない
危険合格ラインに届かない融資が満額出ても、転職の前でも見送る
危険買った後に、住宅ローンを含む借入総額の15%の現金が残らない規模を下げるか、見送る

前述のモデルケースAと、土地の広い中古のモデルケースBを、この表に当てはめます(モデルケースBの数字も説明のための例です)。モデルケースBは埼玉県の築12年の木造アパートで、土地250㎡・路線価20万円/㎡・延床面積200㎡・売出価格7,500万円とします。中古の建物は、工事費用表の単価に延床面積を掛けた額に、残りの年数(耐用年数から築年数を引いた年数)を耐用年数(税法で決められた建物の使用年数で、木造は22年)で割った割合を掛けます。

評価額=20万円/㎡×250㎡+22.8万円/㎡×200㎡×(22年−12年)÷22年=5,000万円+約2,073万円=約7,073万円

モデルケースAの積算割合は約84%(5,448万円÷6,500万円)で、80%を上回ります。しかし土地の割合は約28%(1,800万円÷6,500万円)で、50%に届きません。そのため、モデルケースAは融資が満額出ても見送ります。

モデルケースBは、積算割合が約94%、土地の割合が約67%で、どちらも合格ラインを通ります。売出価格のままでは売値が評価額を約427万円上回りますが、7,000万円まで値下げできれば評価額に収まります。そのうえで売るときに利益が出る可能性が高ければ、転職の前に買う候補になります。

出典:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」

売るときに利益が出る可能性が高いかの確かめ方(成約事例で相場をつかむ方法など)は、前述の収益物件の選び方で書いています。

評価額と価格の差を頭金で埋めることもできますが、筆者は勧めません。自己資金は温存します。

転職までに合格ラインを通る物件が見つからなくても、合格ラインに届かない物件は、転職の前でも見送ります。転職した後の借り方は、転職直後の不動産投資の融資|勤続年数を待たずに打診先を絞るで書いています。

買付の前に確かめる6つ

  1. 販売図面(売り出し中の物件の概要を1枚にまとめた資料)の土地面積・延床面積・構造・築年数と、路線価・国税庁の工事費用表から、モデルケースと同じ順番で評価額を出し、積算割合と土地の割合が80%以上・50%以上かを見る(出し方は積算価格とは)
  2. 値下げ後の売値と評価額を並べ、売値が評価額に収まるかを見る。収まらなければ、基本買わない
  3. 同じエリアの成約事例で、売るときに利益が出る可能性が高いか(資産が残るか)を確かめる
  4. 頭金と諸費用を払った後に、借入総額(住宅ローンを含む)の15%の現金が残るかを計算する
  5. 予定している転職が、異業種・異職種・会社の規模が下がる転職に当たるかを確かめる。直近3年の源泉徴収票を並べ、年収にぶれがないかも見る
  6. 買付から決済までの期間を見込み、転職の時期と重ならないかを確かめる

転職の時期と買う時期を並べるときは、買付(購入の申込み)から決済(代金を払って物件を受け取ること)までの期間も見込みます。前述の、新築にほぼ全額の融資が出た支援先は、その新築の買付から決済まで約2か月でした。

転職がすでに決まっている場合、その予定を自分から金融機関に伝える必要はありません。ただし、金融機関に聞かれたら事実を答え、偽らないでください。

よくある質問

Q. 同業他社への転職で、年収が上がる場合も気にする必要がありますか。

異業種・異職種・会社の規模が下がる転職に当たらなければ、金融機関が好まない型には入りません。ただし、最後は金融機関が1件ずつ判断します。また、属性を強く見る金融機関が2棟目では貸さないことが多い点は、転職の中身にかかわらず変わりません。

Q. 合格ラインに届かない物件でも、転職前に満額の融資が出るなら買うべきですか。

買いません。属性で借りる融資枠は多くの場合1棟目で使う枠で、評価額の低い物件に使うと、2棟目の打診で断られる理由の1つを買った時点で抱えるからです。

Q. 転職の予定は、金融機関に伝える必要がありますか。

自分から伝える必要はありません。ただし、金融機関に聞かれたら事実を答え、偽らないでください。転職の時期が近いときは、前述の「買付の前に確かめる6つ」で、転職の前に買える物件があるかを先に確かめます。

まとめ

転職の前に1棟目を買うこと自体が、悪いわけではありません。避けるべきは、属性で借りる融資枠を、評価額が価格に見合わない物件に使うことです。転職の話が出たら、次の3つを見てください。

  1. 予定している転職が、異業種・異職種・会社の規模が下がる転職に当たるか
  2. 検討中の物件が、積算割合80%以上・土地の割合50%以上の合格ラインを通るか(通らなければ、転職の前でも見送る)
  3. 値下げ後の売値が評価額に収まり、売るときに利益が出る可能性が高いか(収まらなければ、基本買わない)

筆者は、物件は評価額で選び、2棟目以降の融資を見越して買い方を決めます。転職の時期が決まったら、その前に、検討中の物件の売値と評価額を並べ、売値が評価額に収まるかを確かめてください。


この記事を書いた人:本業を持ちながら、収益物件を複数保有しています。宅地建物取引士・相続診断士。150人以上の資産拡大を支援してきました。自分の1棟目は、買った時点で借入が評価額を上回っていました(実質債務超過)。

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